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愛馬の食事・カウンセリングルーム

Q59 チモシー乾草とルーサン乾草

Q59 質問者:乗馬愛好家

18歳のサラブレッドの乗馬を所有しています。
毎日与えていた総量11㎏のチモシー乾草を数か月前からチモシーとルーサンを50対50の割合に変えたところ、少し痩せてきたように思います。
粗飼料の他は、濃厚飼料にルーサン切草とヘイキューブを混ぜて与えています。
総合的なカロリーはチモシーに比べルーサンの方が多い事は飼料成分一覧表でも拝見しましたが、糖質に関してもう少し詳しく教えて頂きたいです。

(1)チモシーの方が糖質は高いと聞いたことがありますが、チモシー-の方が太りやすいのでしょうか?
(2)一方で蹄葉炎の予防には、糖質は控えた方が良いのでしょうか?
(3)また、切草にすると成分が変化すると聞いたことがあります。チモシー、ルーサンを切草にした時の糖質を含めた成分の変化も教えてください。

 

Answer

(1)チモシー乾草とルーサン乾草について
ご指摘のとおり、チモシー乾草とルーサン乾草のエネルギー含有率はともに通常の品質であればルーサン乾草の方が1割程度高くなります。 しかしルーサン乾草の質が低い(茎が多く葉が少ない)場合は、消化率も低下することから、場合によってはルーサン乾草がチモシー乾草を上回らないケースもあります。

牧草の給与量をチモシーとルーサンを半々にすることは、カルシウムなどのミネラル補給の面からも推奨されますので、現在給与しているルーサン乾草の質を見極める必要があると考えられます。

また、18歳であれば歯や消化管に加齢の影響が出現している可能性もあので、歯のチェックをするとともにルーサンを含め乾草の質には今後とも注意する必要があります。 また、ヘイキューブが硬く咀嚼しきれず消化力が低下する可能性も考えられます。

(2)糖質について。
糖質については、デンプンやフラクタンなど非構造性炭水化物(NSC=Non-Structural Carbohydrate ※注1) と呼ばれる物質が多いとエネルギー含量も高くなり、多量に給与した場合は太りやすくなるとともに健康上の問題にも懸念が生じます。 フラクタンはルーサンなどのマメ科牧草には含まれないが、チモシーなどのイネ科牧草に含まれるとされているうえ、年中摂取可能な放牧草には季節によって含有率が変動することが知られています。

これらの非構造性炭水化物は消化しやすく、多量摂取すると未消化の物が大腸に流入してさまざまなトラブルの原因になると考えられます。春先の放牧で蹄葉炎の発症リスクが高まることもそのことを背景としています。 この時期のイネ科放牧草にはフラクタンの濃度が上昇することに加え、冬の間は放牧草が食べられなかった馬が春になって一気に多量に食べようとすることが原因と考えられます。

代謝性(栄養が関連する)の蹄葉炎は、糖を摂取したときに分泌されるインスリンの感受性が低下する
(IR=Insulin Resistance ※注2)ことに起因し、
① 蹄の角化細胞にも糖を取り込む受容体が存在しIRによってその機能が低下する。
② インスリンによる血管拡張作用をIRが低下させることによって蹄への血流が阻害される。
③ IR発症要因のひとつとされる飼料中のNSC(デンプンやフラクタンなどの非構造性炭水化物)を多量に摂取し、それらが大腸内のバクテリア生息環境を悪化させることによって死滅したバクテリア由来の毒素が血流に放出される。

これらの3点が原因で蹄葉炎を発症させると考えられています。

IRを発症している馬の症状として
① 多毛症(長くカールした被毛を特徴とする)
② 飲水量と排尿量の増加
③ 多汗症
④ 無気力
⑤ 筋肉減少
⑥ 腹部膨満

などが報告されていることから、愛馬にそのような症状が出現していないか確認されることをお奨めします。
もし、そうした症状あるいはその徴候が認められた場合は、給与するチモシー乾草はあらかじめ水漬(冷水であれば1時間程度、温水であれば30分程度で相当量の非構造性炭水化物を流失させることが可能とされている)することが推奨されています。

注1 非構造性炭水化物(NSC=Non-Structural Carbohydrate) については-ロカボな牧草を必要とする馬に- 《馬術情報》「愛馬のためのカイバ道場」 Vol.22(2018年5月号)をご参照ください。

注2 IR(=Insulin Resistance) については -インスリンは健康維持のキーホルモン-《馬術情報》「愛馬のためのカイバ道場」 Vol.23(2018年6月号)をご参照ください。

(3)切草について
切草にしても非構造性炭水化物を含め成分そのものが変わることはありません。したがって、チモシーやルーサンを切草とすることによって糖質量が変化することはありません。
一方、繊維の長さが短くなることによって消化管通過速度が速くなることにより若干消化率が低下するという考え方もあることから、切草の切断長は3㎝以上とすることが推奨されます。 切草は濃厚飼料と混合して給与することにより咀嚼する回数が増加し、結果的に唾液の分泌量も増加することから胃潰瘍の防止にも効果があると考えられます。