飼育管理のプロが答える

愛馬の食事・カウンセリングルーム

Q55 濃厚飼料ばかりを食べようとする馬。

Q55 質問者:大学馬術部部員

大学の馬術部に所属しています。
当部には、道産子の父を持つ大きめのポニー(芦毛、16歳)がいます。普段はイタリアンストローを中心とする乾草を与え、それを食べているのを確認してから15分後くらいに濃厚飼料を与えています。

その馬は毎年、冬に入り始めると乾草を食べなくなって濃厚飼料ばかりを食べようとします。そのため、厩舎の周りの青草(野草)を刈って与えているのですが、野草の量や、乾草と混ぜる割合はどれくらいが良いのでしょうか。

また、初歩的な疑問なのですが、<粗飼料は濃厚飼料より前に与えるべき>という科学的根拠はどういったものでしょうか。

Answer

青草(野草)の量ならびに乾草との混合比率ですが、特に明確なルールはありません。 強いて言えば、馬が好む比率とすることでしょうか。青草(野草)には水分が多く含まれるので、乾物に重量換算すると4分の1程度であることを考慮して乾草との給与バランスをご検討ください。
また、イタリアン乾草の嗜好性が悪いため、青草(野草)だけを選択して採食する可能性もありますが、乾草を切り草として青草(野草)とよく混合して与えてみるのもよいかもしれません。

なお、冬が近づくと乾草を食べずに濃厚飼料を食べようとするのか。この道産子MIXポニーの行動変化の背景は不明です。冬に入る前にエネルギーを溜め込もうとする道産子の遺伝子の影響でしょうか。

次に青草や乾草などの粗飼料を先に与える科学的根拠についてですが、IR(インスリン抵抗症)などの内分泌障害発症リスクが高い高齢馬にはリーズナブルな給与方法と言えます。

(インスリン抵抗症については -インスリンは健康維持のキーホルモン-  «馬術情報»「愛馬のためのカイバ道場」 Vol.23 (2018年6月号) でも解説していますので併せてご参照ください。弊社のHPからも閲覧可能です。)
こうした馬に粗飼料を先に与えることによって、その後に与える炭水化物が豊富な濃厚飼料を食べることによって馬に起きるインスリン分泌を緩やかなものとし、ひいては膵臓の負担を軽減させられると考えられます。

このことは、ご質問のポニーのように濃厚飼料を食べたがる馬にとっては特に効果が高いと考えられます。このような馬は濃厚飼料を十分に咀嚼しないまま食べてしまう傾向が高く、胃潰瘍を予防する観点からも推奨されます。
ヒトの糖尿病患者に対する食事療法においても、野菜を先に食べてから主食を食べることによってインスリン分泌や血糖コントロールを正常なものに近づける効果が確認されているところです。